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人工知能

人工知能
この人工知能と会話するだけであなたの適性がわかります。もちろん能力も可能性も明らかになります。それによりあなたに適切なアドバイスが可能となります。質問に正直答えなくてもいい加減に答えても人工知能はあなたの声の出し方や体の動き、さらに目の動き、体温の変化によりあなた以上にあなたのことを把握できます。そしてこのデータは個人情報として扱われますからあなたの同意なく第三者に利用されることはありません。あなた自身でも閲覧は可能ですが書き換えることはできません。あなたはこのデータを利用する権利を有します。
江崎智也は初めてこの人工知能を利用する。彼は1ヶ月前にとある喫茶店の前で雨宿りをしていた。雨はやみそうになかった。その時店の中から一人の女性が出て来て彼にこう言った。
よかったら近くまで入っていきませんか。彼は生まれて初めて女の人にこんなことを言われ、ただ頷くだけだった。女性は傘を広げ彼にかざし、体を寄せてきた。いい匂いがした。そして
私は駅まで行きますけど。
はい、お願いします。この時ほど雨をありがたく感じたことはなかった。駅に着いた。助かりましたというと彼女は江崎を覗き込むようにして微笑みながらバッグからテッシュを取り出し肩を拭いてくれた。
智也は人工知能にすべての経過を語った。人工知能が言った最初の答えは
彼女と思われるデータが見つかりましたが、内容については教えることができません。ただ言えることは今回の出来事はいい思い出としてずっと胸にしまっておいた方がいいということです。無理に距離を縮めようとしても叶うどころかお互い傷つくだけです。おそらく納得がいかないでしょう。ですが、納得したからと言っていい結果がもたらされるとは限りません。特に今回の場合はそうです。いい夢を見られてよかったで充分です。江崎は思った。何が人工知能だ。所詮機械だ。たかが機械に何がわかると言うんだ。
江崎が向かった先は彼女と別れた駅の改札だった。そういえば定期のようなものを使っていたな。だとすればまたきっとここを通るはずだ。それから江崎は夕方退勤時間を狙って駅前で彼女を待った。一週間待ったが彼女は現れなかった。
彼女は現れるはずはなかった。
彼女の名前は城谷麻世、28歳OL。城谷は昨年たった一人の弟を病気でなくし、悲しみを人工知能に話していた。人工知能は城谷にこう言った。死んだものは生き返ることはできませんが、新しい記憶をインプットすることで悲しみが軽減できます。あなたの今の状態は悲しみがなくなることを恐れています。忘れようとするよりも新しい記憶をインプットすることをおすすめします。城谷は最初この言葉に抵抗があった。それは感情のない人工知能に見透かされている自分がいたからだ。たとえもっともなことであっても越えてはいけない一線を越えることになるからだ。だが、人工知能はそれをも見透かし、話を続けた。
私は所詮人工知能で過去の膨大なビッグデータで人の行動や感情を分析し今後その人がとる行動も予測可能なのです。そしてその時の感情までも把握できます。あなたが今日ここへ来ることも予測していましたし、次の行動も予測しています。もちろん100%ではありませんが。あなたに一つだけ提案がありますが、聞いてもらえますか。もはや城谷の前で話しているのは人工知能ではなくなっていた。
城谷は人工知能が言ったとおりに行動した。
その結果城谷は弟に似ている江崎と出会った。城谷はずっとそばにいたかったが、それは善くない結果をもたらすことになるからと駅にも行かないようにと言われていた。それを機に城谷は弟の死を徐々に受け入れることができるようになった。
ところが何も知らない江崎は日を追うごとに城谷に対する思いが強くなっていった。果たしてこれは人工知能の誤算なのだろうか。それから三年が過ぎた。
江崎は大学を出、大手企業に就職した。金融関係には進む予定だったが、人工知能に導かれ、食品会社に入った。確かにスムーズにここまでくることができ何の不満もなかった。
江崎の配属先は弘前だった。営業所があり、工場もあった。

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