スキップしてメイン コンテンツに移動

岩崎英五タクシー運転手

岩崎英五、タクシー運転手。
すすすタクシー会社、勤務8年目。
48歳。15歳の娘がいる。実は
バツイチ、食品会社リストラ。

ロックな客
朝の5時岩崎は青山通りを渋谷ヘとタクシーを走らせていた。
メーターは75600円になった。
20代の金髪の男は後部座席で寝ていた。あと5分ほどで白金台に到着する。

お客さん、もうすぐ着きます。
客は酔っ払ってはいたが、すぐに起きた。
運転手さん、あと30分寝かせてもらえませんか。
止めましょうか。
いや、走らせてください。
走らせていないと眠れないんですよ。

そう言ってまた寝だした。気持ちよく寝ているのでそのまま走らせた。30分がたった。目的地の白金台にもついた。

お客さん、着きました。
ハザードランプをつけて車を路肩に寄せた。
お客さん、着きましたよ。
振り返ると男は完全に横になり、バッグを枕にして寝ていた。揺すると目を覚ました。
手持ちが8万円というのでそれを受け取った。肌寒い中、半袖にベスト姿。

このあたりで働いているのか。岩崎はいろいろと考えた。自分の世界に入っていった。

ヨシキが抜けたいって。
ヨシキ!本当なのか。なんとか言えよ。
みんな聞いてくれ。解散しようと思う。曲が作れなくなった。
有名になってテレビにも出て金も入ってきた。生活も変わった。だけど俺たちが目指している方向と違ってきたと思わないか。だから俺は解散する。
ファンはどうするんだ。契約もあるだろ?
契約は更新しない。今度のツアーを最後にする。

身も心も疲れ果てた。幼い頃一人ぼっちだった。学校にも行けずヒッチハイクを繰り返し。ある時トラックの荷台で夜を明かしたこともある。デコボコ道に体を揺さぶられ、心地よく感じそれがリズムを生み出し、いつの間にか眠ってしまったりもした。もしかすると原点だったのかもしれない。

岩崎はバックミラーで男を見た。一言言った。
お客さん、人生はこれからだよ。楽しもうぜ。ロック!!
男は笑顔でロックと答え、車を降りた


細かいのがない客
表参道を左に曲がったところで止めてください。ここでいいです。
お釣りがないんですが。
先のコンビニで崩して来てもらえますか。

岩崎英五は20分ほど待ったところでようやく女が戻ってきた。
女はちょっと不機嫌だった。

料金を受け取り領収書を渡すと駆け足で去っていった。

岩崎はいろいろ考えた。自分の世界に入っていった。
女はサンドイッチと飲み物を持ってレジに並んだ。
1000円以上購入するとスピードくじが引けますが、どうしますか。
女は脇にあったお菓子をとってスピードくじを引いた。
お客さん、これ、明日までなんです。
店員にそう言われ、100円玉でスクラッチをこすった。300円と出てきた。女はちょっと考えたが、使わない手はないと思い、シャンプーを取ってきた。
お客さん、これ、1000円以上買わないとだめなんですよ。
じゃ、タバコ。
お客さん、お酒やタバコも使えません。
店員さん、そういうの先に言ってもらえます?こっちは外にタクシー待たせてるんですから。
女はその場でスクラッチカードを破ってコンビニを出た。

岩崎は女に言った。笑顔、笑顔。女の顔は強張った。岩崎は得意の変顔をした。女はバーカと言いながら笑って走って行った。

岩崎が千葉の自宅に着いたのは夜中の2時頃だった。
結婚記念日は昨日で注文しておいたケーキもネックレスも遅くて受け取れなかった。
新宿で乗せた客が泥酔していて大宮まで送ったが、道を全く思い出せず、挙句の果には交番のお世話になりと惨惨だった。
結婚して20年間一度も記念日を祝ったことがなく、自身の運命を呪いそうになった。
玄関をそっと開け中に入った。気づかれないように冷蔵庫を開けた。缶ビールを取り出してソファーに腰掛けた。
カチッと音がして居間の電気がつき、振り向くと
両手にケーキを持った妻が立っていた。
おまけに首には贈るはずだったネックレスをかけていた。
どうしたと聞いても答えず黙って2本のローソクに火をつけて一緒に消すようにうながされた。消し終わると妻はケーキをひと切れだけ切り岩崎の目の前に置き、寝室ヘ帰っていった。

雨、雨、雨今日で3日連続の雨となる。岩崎は今週は早番で4時起きだった。家から10分ほど歩いたところに駐車場がある。まだ11月だというのに底冷えがする。暗い道を傘をさしながら小走りで駐車場へと向かった。水たまりに気づかず足をとられた。長靴を履いてて正解だったと思った瞬間何かを踏んで足がくねっとなった。ネコ踏んじゃった?よく見ると人の手だった。
あちゃーと声も出ず、後ろに手をつき、尻もちをつきそうになったが、もち堪えた。顔を見ると目が開いていたので大丈夫ですかと聞いてももちろん返事などなく、よく見ると背中に何かが刺さっていて、車の無線を使って警察に連絡してもらった。

あなたが第一発見者ですか。
怪しい人を見かけませんでしたか。何か思い出したらこちらに連絡してください。

運転中もずっと朝の出来事を考えていた。
若かったな〜。綺麗な娘だった。何であんなことになったんだろう。
恋人に別れ話を持ちかけたら男が狂って刺したのかなぁ
通り魔なのか。
ラジオをつけてみたが、ニュースにはなっていなかった。
知らないうちに雨は上がっていた。
夕方になり、回送に変えて走らせると女の人が手を上げていた。スピードを落とし、近づくとどこかで見たことのある顔の女だった。
偶然同じ方向だったので乗せることにした。
女が話しかけてきた。
雨があがってよかったですね。
ええ
あのう、前にどこかでお会いしたことあります?
女はバックミラー越しに見るだけで何も答えなかった。
その時背筋に冷たいものが走って両腕に鳥肌が立ち、首筋から頭にかけて電気が流れた。
まさか?恐怖で後ろを振り返ることもできなくなり、大声で叫びたい気持ちを抑えとにかくアクセルを踏み続けた。
こんな明るいのにお化けって出るのか
これまで叫び声を上げたのは三回、一回目は小学生の時突然デカイゲジゲジが畳の上を音をバタバタバタバタと立てながら駆け抜けるのを寝そべって、生まれて初めて恐怖でぅ~う〜わ〜とコントロール不能のこのまま叫ばないと自分が自分でなくなるし、叫びすぎると壊れるしで叫んだ。
2回目は煮えたぎっていたとは知らず風呂の板の上に素っ裸で乗っていて態勢を整えなおそうと体をちょっとずらした瞬間、思いっ切り湯船に落ちて飛び上がって前転して脱出した時わあーと漫画の吹き出しのように叫んだ。ズボンを脱ぐと太ももの皮がベロンと剥け体は寒かったが、その部分だけは熱かったことも思い出した。三度目は高校の部活が終わり真っ暗な山の一本道を一人で帰宅、途中に外人墓地を横切る時恐怖を抑えようと山中に響き渡るような叫び声を上げ突っ走った。今回は一応大人と言うことで抑えたが油汗を初めて流した。

女の行った場所に近づく頃には仕組まれたかのように辺りは暗くライトダウン。水銀燈も何故か点滅。後ろを振り向くこともバックミラーすら見れない超前傾姿勢で胸をハンドルで切っていた。やはり駐車場の手前で降りるのか。駐車場を過ぎたところでフレグランスの香りがした。いるって〜となったが、とにかく降りてもらおう。ハザードをつけ、端に寄せてドアを開けた。その時すっと一万円札が目の前にダメだ。叫ぼう。車を飛び降りて家まで走った。すると後ろからヘッドライトが
追いかけてきた。もうチビリながら走った。アパートの前で娘が笑って駆け寄ってきた。お姉ちゃん。よく見ると妻の姪っ子だった。思いっ切り爆笑されたが、失いそうな気を立て直して車を駐車場に止めに行った。
部屋に戻っ手布団にぶっ倒れた。雨の音で目が覚めた時計を見ると朝の4時汚れているはずの長靴がしまってあった。
水たまりを避けることができた。車に乗り走らせた。
夢だったのだろうが、やけにはっきりとしててそれに忘れていた昔のことも思い出せて、なんだかすっきりした。

外人さん
オリンピック需要でこのところ外人さんの乗客が増えた。先日も中国人を乗せて大使館まで行った。
中国大使館とだけ告げられ、&そのあとは会話することはなかった。車を大使館の手前で止めた。お金を受け取ると後ろから銃声が聞こえた。もちろん最初は何の音か分からなかったが、中国人が撃たれた。
刑事が現れた。
どこかで見たことのあるような。



コメント