土岐保23歳は時空を行ったりきたりできる。ただ一度の移動で寿命を1年短くすることになる。また体は移動せずに3分間だけ未来を見ることも可能だ。その際には1日分寿命を削ることになる。彼は去年の夏友人と海辺までドライブに出かけ、途中不運にも事故にあってしまった。命は取り留めたが重症で意識不明が一週間ほど続いた。彼が病院のベッドで見ていたのは彼の過去と未来であった。そして現実の自分の置かれている状況に気がつき、彼は目が覚めた。退院してからも彼はときどき夢を見る。不思議なことにその夢はあまりにも鮮明であった。そして夢に見たことが現実に起こった。それから彼は寝る前に次の日のことを思った。すると見たとおりのことが現実になった。彼は自分の寿命に興味を持ち、いつ死ぬのかを思い、床に就いた。彼は車椅子に乗っていた。視力が衰えていたせいかはっきり見ることはできなかったが、そして彼は強い衝撃を受けた。記憶が一気に彼の頭に入り込んできた。彼は気がついた。今日がいつでどうしてここにいるのかも一瞬にしてわかった。そしてこれは夢ではなく現実であることもわかった。彼は未来にやってきたのだ。死期が迫っている未来にやってきたのだ。彼は周りにいる家族を見つめた。そしてまた目を閉じた。次の瞬間彼は若くなり、自分の部屋にいた。自分が将来どうなり、いつ死ぬのかもわかってしまった。そこには興奮と呼べるものもなかった。逆に虚しさも覚えた。それから数日後自分の未来の記憶は薄らいできてだいぶ楽になった。
彼は2度目の自分の死期に目覚めた。前と違うのは年が若くなっていた。
彼はふと考えた。もしかしたら未来へ行くたびに自分の寿命が短くなっているのでは。だとしたら未来へ行かずにすむようにならないかと悩んだ。
あれほどあこがれていた未来だったが、彼にとっては過去のものとなってしまっている。わからないから未来なのだ。知ってしまえば過去に過ぎない。彼は失望のまま虚しく時を過ごしていた。何度も未来へ行くことで自分の寿命を縮めてしまう。彼はそんな苦痛から逃れようと死の道を選んだ。そしていつの間にか彼はあの事故現場へ向かっていた。事故からちょうど1年目のことだった。
忘れることがいかに幸せなことで不透明な未来があるからこそ有意義に全力で生きられる。そしてさまざまな価値を生み出すこともできる。それらがすべて思い出となり、自分自身の人生を飾っていく。成功や失敗を超えた、勝ち負けも大きく包み込める悔いのない人生となる。そこには犠牲も妥協も愚痴もない世界が広がる。
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